認知症に備えて
高齢社会を迎えるとともに認知症が大きな社会問題になっています。
相続が開始する前に被相続人や推定相続人が認知症になってしまったらどのような弊害があるのでしょうか?
認知症は相続におおきな影響を及ぼします。
認知症により制限される事柄
- 自分名義の不動産であっても自由に売買できない、貸す事もできない。
- 遺言、節税、借金、事業承継といった相続対策ができない。
- 介護サービスや治療行為を受ける契約ができない。
- 家賃の支払いや受領、年金等給付金の請求や受領、貸し金庫、預貯金の払い戻しができない。
- 遺産分割協議ができない。
- 保険の満期時に受け取りができない可能性がある。
認知症になると契約行為や、権利の行使、義務の負担など様々なことが制限され、今まで自らの意思で自由にしていたことが単独ですることができなくなってしまいます。
相続に関してはほとんどの対策が打てなくなります。相続対策が必要なら健康なうちに講じておく必要があります。
認知症になる前に(任意後見制度)
将来自分の判断能力が低下した時に備え、判断能力が低下する前に自分が信頼できる方と任意後見契約を結んでおくことができます。
任意後見契約は公証人の作成する公正証書により締結する必要がありますが、契約を締結しただけの段階では効力は発生せず、本人の判断能力が低下した段階で家庭裁判所において任意後見監督人が選任され、そこから効力が発生します。自分が信頼できる方を後見人として選んでおいて、自分の判断能力が低下したらその人に財産管理や身上監護を委ねるという制度です。任意後見契約の利用形態としては将来型、即効型、移行型の3種類がありますが、移行型がいちばん利用されているようです。任意後見契約と併せて公正証書による遺言や尊厳死宣言などもセットでおこなうケースもよく見受けます。
すでに認知症なら(法定後見制度)
判断能力が十分でない場合に本人を法律的に保護する制度として法定後見制度があります。
症状に応じて補助開始の審判・保佐開始の審判・後見開始の審判を家庭裁判所に申し立てます。申し立てから手続きが完了するまで2~6カ月ほどかかります。費用は5~15万円ほどです。後見人の職務は本人の生活状況に配慮しながら本人に代って必要な契約を結んだり、本人の財産を適切に管理することです。
一旦後見人に選任されたら職務は本人の判断能力が回復するか死亡するまで続きます。
民事信託
民事信託とは所有者(委託者)が、その保有する不動産などの資産を信頼できる人(受託者)に預け、誰か(受益者)のために特定の目的(信託目的)に従ってその財産を管理処分する法律関係をいいます。
中でも親族間で組成する信託のことを家族信託といいます。法定後見や任意後見の場合家庭裁判所が関与するため、本人とは関係の無い相続対策や、不動産の売却あるいは積極的な資産運用は制限されますが、家族信託は家庭裁判所が関与しないためあらゆる問題に柔軟に対応することができます。たとえば親亡きあとに障害のある子の生活を保障したいとき、高齢の資産家が認知症リスクを踏まえ相続対策をしたいときなどに有用ではないかと思います。
詳細は専門家にお尋ねください。