債務
プラスの財産は遺言及び遺産分割協議で相続人が自由に取得割合を決めることができますが、債務は債権者の承諾が無い限り全相続人が法定相続分に従い相続することになります。
たとえば賃貸アパートを相続した長男にアパートに伴う借入金も相続させたいときは、債権者の承諾が必要となります。相続人の間で債務の負担割合を決めることは有効ですが、それを債権者に主張するためには債権者の承諾が必要なのです。もし長男一人が賃貸アパートを相続し、建設に伴う借入金も相続させたいなら、債権者と全相続人との間で免責的債務引受契約を交わさなければなりません。権利を相続するならそれに付着する義務も負担するのが公平ですし、権利関係もすっきりします。事業承継についても、社長が会社の個人保証をしている場合には後継者以外の相続人も債務だけは引き継いでしまいますから、何らかの対策を講じなければなりません。
(1)会社に対する貸付金
社長個人が自分の会社にお金を貸し付けている、いわゆる社長勘定というケースはよくあることです。
もし社長個人が自分の会社に5,000万円貸し付けたまま相続が開始したとすると、その貸付金は社長個人の会社に対するプラス財産5,000万として評価されてしまい、相続税の課税対象になります。また会社の貸借対照表にも残ったままなので、相続が発生する前にちゃんと処理しておいた方が無難です。
会社が赤字ならタイミングを図り貸付金を株式に振り替えるという事務処理をしてください。これは税理士さんの仕事ですので、詳しくは顧問税理士にお尋ねください。社長が会社に運転資金をつぎ込むケースはよくありますが、赤字の場合が多いのではないでしょうか?
なにも対策を講じないとすると手元に無いお金に対して相続税が課されることになりかねませんので注意が必要です。
(2)保証人の地位
被相続人が好意で誰かの保証人になっていたとします。しかしそのことを家族にはなかなか打ち明けられないものです。
この状態で相続が開始しても、主たる債務者が滞り無く返済しているうちは問題となりませんが、主たる債務者が返済できなくなったとき、ある日突然債権者から相続人に対して貸金返還請求が届くことになります。相続人は被相続人の権利義務を承継していますから、隠れた債務(保証人の地位)に対しても注意しなければなりません。裁判上の地位に関しても同様のことがいえます。目ぼしい財産がないときは念のため家庭裁判所にて相続を放棄しましょう。被相続人に債務があるかどうか分からない場合は、個人情報信用機関(銀行系、クレジット系、信販系)なども活用してください。
(3)相続人の債務
相続人の一人に多重債務者がいる場合は第三者登記が入る可能性もあります。
マチ金は債務名義に基づき相続人に代位して法定相続分に従った強制登記をかける準備をしてあると思ったほうが無難です。相続が開始すると債務者の共有持分を差し押さえ、競売の申し立てをしながら債権回収を図ります。これを回避するため遺産分割協議で「私は何もいりません」とした場合、その行為は詐害行為取消権の対象になってしまいます。これを回避するには遺言公正証書が有効ですが、予め相続人が債務整理をしておくことが一番望ましい解決方法です。「相続人の問題」の項目も参考にしてください。
(4)債務の承継
相続財産の中に賃貸マンションなどの資産がある場合は建設にともない銀行借入れをしているケースがほとんどです。相続人の一人が単独で賃貸マンションを相続したとしても借入金自体は「当然分割」とされ、法定相続人が相続分割合で承継してしまいます。相続人の間では債務の引き受けは自由に決めることができますが、そのことを債権者である銀行には主張できません。
これを避けたいなら金融機関、マンションを相続する相続人、その他の相続人全員での3者間で免責的債務引受契約を締結する必要があります。ただし免責的債務引き受けといいながら、保証人の地位を兼ねた契約書も存在しますから、注意を要します。ここでは金融機関との交渉力が求められます。
(5)相続放棄
「相続発生後の相続人の選択」の項目も参考にしてください。
相続人は、自身が相続人であることを知った日から3カ月以内にその相続について、承認、放棄、限定承認のうちいずれかを選択しなければなりません。相続人であることは知っていたが、多額の債務があることまでは知らなかった、あるいは相続が開始して1年以上が経過しているなどの理由から、相続放棄をあきらめてしまう相続人もいますが、事案によっては認められるケースもありますので、あきらめないでください。
縁遠い間柄、財産が欲しくないようなときは、念のため家庭裁判所で相続放棄することをお勧めします。