相続税
相続において一義的な関心事といえば相続税です。
いくら相続税がかかるだろうか?
申告はしなければならないのか?
などがおもに気になるようです。令和元年においてはおよそ138万人の方が亡くなり、そのうち相続税が課税された割合はおよそ8.3%という統計でした。相続を相続税という側面から大別するなら、
①相続税のかからない人
②相続税の申告をすることによって相続税がかからない人
③相続税がかかる人に分けることができます。
相続により取得したプラスの財産からマイナス財産(借金など)と葬儀費用、基礎控除額等を差し引き、残りがある場合に相続税が課税される、そんなイメージで捉えてください。
(1)相続税がかかる財産とかからない財産
遺産の全てに対して相続税がかかるわけではありません。相続税には課税される財産(課税財産)と課税されない財産(非課税財産)があります。課税財産とは金銭に見積もることのできる経済的な価値があるもの全てが含まれます。
以下課税財産を記してみます。
- 土地(田、畑、宅地等地目の如何を問わない。借地権、永小作権も)
- 建物(貸家、自家用家屋、その他構築物)
- 事業用資産(機械器具、自動車、船舶、商品、製品、売掛金、貸付 金、未収金、受け取り手形、営業権)
- 現金・預貯金(金銭、小切手、普通預金、定期預金、)
- 有価証券(上場株式、自社株式、国債、公債、社債、証券投資信託受益権、貸付信託の受益証券)
- その他の財産(家具、立木、宝石、貴金属、ゴルフ等会員権、書画、骨董品、特許権、著作権、未収家賃、貸付金)
以上のほかに建築中の家屋、準確定申告の還付金、生前に支給が確定した退職金、入院給付金、解約返戻金などにも課税されます。注意したいのは社長個人の会社に対する貸付金や名義預金などです。
その他にもみなし相続財産として生命保険金や、生命保険契約に関 する権利、定期金に関する権利、退職手当金、その他の経済的利益、 相続時精算課税制度を適用させた財産・過去3年以内の暦年贈与 なども課税対象となります。
(2)相続税がかからない財産
社会政策的な見地、国民感情、財産の性質上相続税の対象とすることが適当でない財産もありますがこれらを非課税財産といいます。以下おもなものを記してみます。
- 墓所、仏壇、仏具、香典。
- 公益事業を行う者が相続または遺贈により取得した財産でその公益事業に供することが確実なもの。
- 心身障害者共済制度に基づく給付金の受給権。
- 相続人が受け取った生命保険金のうち一定の金額。
- 相続財産を申告期限までに国等に寄付をした場合における寄付財産や特定の公益信託の信託財産とするために支出した場合における金銭。このほかにも相続税には基礎控除額や、相続人が受け取った死亡保険金や退職手当金の一定額などは非課税となっています。
(3)債務控除
相続税は相続または遺贈により受けた利益(正味財産)に担税力を求め課税されるため、財産の取得者が被相続人の債務を承継して負担する場合はその負担分だけ担税力は減殺することになります。そのため債務や葬式費用を取得財産の価格から控除して相続税の課税価格を計算します。
以下に債務控除できるものとできないものを例示してみます。
- 債務控除できるもの
- 金融機関からの借り入れ
- 貸家の敷金や保証金(返還を要するもの)
- 未納固定資産税・所得税・消費税・準確定申告による税金・延滞税・損害賠償金等
- 債務控除できないもの
- 墓地購入未払い金・遺言執行費用・税理士報酬・香典返戻費用等
(4)贈与財産の相続財産への加算
被相続人から生前に財産の贈与を受けていた場合にはその贈与時の財産価格をもって相続税の課税財産に加算し、相続税として計算し直すことになっていますが、このことを相続財産の持ち戻しといいます。
但し相続開始日から過去3年以上経過した贈与は加算しません。該当する贈与があった場合は、相続税の課税財産として算入しなければなりません。これとは別に相続時精算課税制度を選択していた場合は3年以上前の贈与も相続財産に持ち戻し計算します。
以上までのことで相続税として課税される財産の中身がおよそ把握できたことと思います。
(5)算出相続税額
相続税の計算をする際は法定相続人の数を採用し、税率については超過累進税率を採用して計算をすることになっています。
課税される財産の中には土地、家屋、有価証券、預貯金等様々なものがありますが、これらを相続開始時に円に換算するといくらになるのか?という財産評価をおこないます。評価の方法は財産の種類により異なりますが、たとえば財産が土地なら路線価格で評価することになります。
円に換算したところで、そこから基礎控除額を差し引きます。
基礎控除額は
3,000万円+600万円×法定相続人の数
で計算します。
たとえば父母と子供2人の家族構成で父に相続が発生したとしたら
3,000万+600万×3人(母、子供2人)=4,800万円
が基礎控除額です。
この家族の場合財産の合計が4,800万円以下なら相続税は課税されないことになります。また財産の合計が基礎控除以下なら相続税申告の義務もありません。仮に法定相続人が法定相続分で相続税の申告をした場合、相続税額の総額は以下の要領で算出します。
- 相続税の課税価格の合計額から
- 基礎控除額を控除した金額(課税遺産総額)を
- 法定相続人が法定相続分に応じて仮に取得したものとした場合における
- その各取得金額につき
- それぞれ超過累進課税を適用して計算した金額を
- 合計した金額とする。
法定相続人というのは、相続の放棄があったとしても、その放棄がなかったものとした場合における相続人をいいます。
相続税計算の場面では相続人の恣意性を廃除し、租税回避行為を防止するため法定相続人の数で計算することになっています。
父に相続が開始し、課税価格を1.6億円と仮定し、配偶者と子供2人が法定相続人として計算してみると
- 1.6億-(3,000万+600万×3人)=11,200万円(課税遺産価格)
- 配偶者 1/2×11,200=5,600万円×30%(税率)-700万(控除額)=980万(相続税)
- 子供 1/4×11,200=2,800万円×20%(税率)-200万(控除額)=360万(相続税)
この家族の場合、子供それぞれ360万円配偶者980万円、あわせて1,700万円の相続税がかかることになります。
相続税の計算は、法定相続人が法定相続分通りに財産を取得したと仮定し、相続税の総額を算出しますが、民法上は法定相続分で相続しなければならないという規則はありませんから、配偶者がすべて相続しても良いし、合意があればどのような分け方をしても構いません。各人の相続税額は、相続税の総額に対して実際にその人が取得した割合(按分割合)に応じて算出することになります。
目先の税コスト削減だけを考えるなら、上記のような一次相続の場合は配偶者が16億円すべてを相続し、配偶者税額軽減を適用させれば相続税はゼロにおさえることもできます。但し申告が必要です。
相続税額は、誰が、何を、どれだけ相続するか?により変動します。
各人の相続税を算出したあとで配偶者税額軽減をはじめ、未成年者控除、贈与税額控除、障害者控除、相次相続控除、二割加算等を経て最終的な相続税額が確定します。相続税の計算の流れ図も参考にしてください。