遺産分割
相続が開始すると、被相続人の死亡と同時に民法で定められた相続人に所有権が移転し、遺産分割未了共有状態となります。
民法で相続人と相続分は規定されていますが、この相続分はまだ確定した権利ではありません。もし遺言があれば遺言に従い遺産分割をします。遺言が無い場合は各相続人の確定した所有権にするための話し合いが必要となりますが、この話し合いのことを遺産分割協議といいます。遺言があったとしても話し合いですべての相続人が合意すればどのような分け方をすることも可能です。
遺産分割協議を経て相続登記が済まないうちは原則として預金を解約したり不動産を売却処分することはできません。
- 遺産分割の心得
民法906条に「遺産の分割は遺産に属する物又は権利の種類及び性質、各相続人の年齢、職業、心身の状態及び生活の状況その他一切の事情を考慮してこれをする」とあります。
言い換えれば一切の事情を考慮し、相続人同士が自由に決めてくださいとも読めます。それぞれの相続人の相続分は民法で保障された権利でもありますし、これを基本として遺産分割に臨むべきですが、だからといってその相続分が必ずしも公平とも限りません。
生前それぞれの相続人が被相続人(故人)とどのように関わってきたのか?
また、その他の相続人の生活状況も考慮したとき初めて道筋がみえてくるものです。法律の枠を取り払い考えてみることも重要です。 - 配慮したいこと
民法では明文していませんが、配慮したい事柄を幾つかあげてみたいと思います。
- ① 誰が被相続人及び配偶者の面倒を看てきたのか?
介護をした人がいるなら考慮すべきです。被相続人の身の回り、食事、下の世話…もし有料の介護サービスを利用していたならその分財産は目減りしたはずです。 - ② 誰が家業を継いだのか?墓を守るのは?
本家を維持していくためには近隣との付き合いなどもあり、それなりの財産が必要です。また家業に伴う債務も承継してもらわなければなりません。 - ③ 過去に特別受益(生前贈与)や寄与があったか?
結婚資金をもらった、生計のための資金をもらった、借金の尻拭いをしてもらったならそれは相続財産の前渡しといえます。また、固定資産税を立替払いしていた等、財産の維持増加に貢献した相続人がいるなら配慮すべきです。 - ④ 自分以外の相続人の生活状況はどうなのか?
民法においても遺留分や寄与分、特別受益についての規定はありますが、権利を主張するだけではなく譲る気持ちをもって遺産分割に臨んでください。相続人以外(配偶者等)は口を挟まないほうが良いと思います。ただで頂くものに対して多いとか少ないとか言わないこと。相手のことも考えお互いが少し譲れば争いの無い相続が実現できるはずです。
- ① 誰が被相続人及び配偶者の面倒を看てきたのか?
- 分割方法
遺産分割には遺言による「指定分割」話し合いによる「協議分割」紛争が生じた場合の「調停審判」による分割があります。遺言があれば遺言に従い、遺言が無いなら話し合い、話し合いで決着がつかなければ調停、審判という仕組みになっています。ここでは話し合いで遺産の分配方法を決める「協議分割」について更に詳しく解説します。
- (a)現物分割・土地建物、預貯金などの現物をそのまま分ける方法
現物分割は文字通りそのまま現物を分ける手法です。
現預金については一円単位まで分ける事ができますからさほど問題はありませんが、土地建物などの不動産は共有にすると後日紛争の火種になってしまうことがあるので、特に兄弟間での不動産の共有は避けてください。どんなに仲の良い兄弟でもそれぞれ経済事情は異なります。不動産を共有にした場合、後日自分の都合によりその不動産を売却したくとも全員の合意がなければ売ることはできないし、貸すことも難しくなってしまいます。
不動産については単独所有とすることをお勧めします。 - (b)換価分割・お金に換金して分ける方法
土地建物を売却し、その換価金を相続人が分ける手法です。
分割できるほど広い敷地なら分割して各相続人の確定した所有権にすることもできますが、日本の住宅事情においては分割できないケースがほとんどです。後日すぐに売却する合意ができているなら別ですが、そうでないならとりあえず共有にしておくという選択は避けたほうが無難です。特別な事情がない限り今後土地が値上がりする見込みはありません。
現金化し、別な資産に組み換えるなどしたほうがよいと思います。 - (c)代償分割・不動産等を承継した相続人が他の相続人に金銭(代償金)を支払う方法
遺産が土地建物しか無いような場合に、相続人の一人が土地建物を単独で相続する代わりに、単独で相続した者がその他の相続人に金銭を交付するという方法です。
代償分割をする場合は、遺産分割協議書にそのことを明記してください。代償金の明記がない場合、後日贈与税が課せられる可能性もあります。また代償金の代わりに土地を渡したとすると、その行為は相続人間で土地の譲渡をしたとみなされ、譲渡所得が課せられてしまうので、代償金は金銭で渡してください。
- (a)現物分割・土地建物、預貯金などの現物をそのまま分ける方法
- 遺産分割の期限
遺産分割はいつまでにしなければならないという時間制限がありませんが、不動産については相続人であることを知ったときから、かつ不動産を所有したことを知ったときから3年以内に相続登記をしなければならないという期限が付く見込みです。
今現相続登記がされていない不動産についても対象となり、この義務を怠ると罰則(10万円以下の科料)も予定されています。ただし、どうしても登記ができない正当な理由があれば届け出ることにより義務は免除されそうです。
相続税のかかる人は10カ月以内に申告と納税をする必要があるため、遺産分割もしなければなりませんが、相続税のかからない人は申告の義務もありません。相続税がかからないからといって登記をそのままにしておくと、相続人が複数の場合時間の経過とともに更に相続が発生し、相続人が増えて収集がつかなくなってしまうこともありますので、相続登記は早期に済ませておきましょう。
遺産分割協議を経ているか、もしくは遺言が無い場合は原則として相続による所有権移転登記はできません。 - 留意点
- 被相続人が確定申告をしていた場合は4カ月以内に準確定申告をしなければなりません。
これは被相続人の死亡時までの確定申告のことをいいますが、このとき相続人全員に集まってもらうことが大事なポイントです。準確定申告がうまくいけばその後の遺産分割もスムーズに行くことが多いです。
税理士さんにお願いして全員が顔をそろえる場を設けてください。 - 多額の相続税がかかる地主さんは速やかに動かなければなりません。
売って納税に充てる土地は、相続税の負担割合で先に相続登記を済ませ、いち早く現金化し納税に備えておきます。特に生産緑地を売却し納税に充てる場合はかなりのスピードで進めなければ間に合わなくなってしまいます。揉めてる暇はありません。 - 地主さんの場合は二次相続、三次相続をも視野に入れた分割案を考えなければなりません。
大事なのは残された相続人の生活です。相続税を安くあげるのが必ずしも良い税理士とはいえません。税理士さんの選択は重要です。 - 遺産分割で大事なのは相続人の確定作業ですが、これは司法書士、行政書士の職域です。
相続人のなかに非嫡出子、養子、縁遠い相続人などがいる場合でも、通夜と葬儀の通知を出して席は用意したほうが良いと思います。ボタンの掛け違い一つが紛争の火種になることもありますから。
- 被相続人が確定申告をしていた場合は4カ月以内に準確定申告をしなければなりません。